福岡高等裁判所 昭和30年(う)2428号・昭30年(う)2427号 判決
原判決認定の事実は、被告人は原審相被告人神谷喜之、星野和男、曺相祚と共謀の上、昭和三十年三月二十一日、当時韓国から若松港に入港していた韓国貿易船第六十三魚生号に積載中の右曺相祚所有の韓国産海苔二十一梱(計三千二十四束~一束百枚)を、所定の許可を受けないで福岡県京都郡苅田町苅田港に陸揚げして密輸入し且つその関税を逋脱せんことを企て、同日同船を右若松港より苅田港に回航したところ、同船が誤つて苅田港貯炭場附近で坐礁したので、止むなく海難と称して所轄警察官に届出で、その指示により右海苔を同所に陸揚げの上、翌二十二日小倉市富野五百五十四番地所在の大和興産株式会社保税上屋に入庫せねばならぬことゝなり小倉市所在の同会社第二倉庫まで運搬したが、更に右海苔の中、千九百七十七束をひそかに右梱包より抜き取つた上、残り千四十七束のみを税関に届出の上同会社の保税上屋に搬入したため、該海苔については関税逋脱の予備及び密輸入の未遂に終つたが、右千九百七十七束は同日広島市旭町三村義人方に運搬して同人に売却し以て密輸入をなすと共に、その関税金七万七千百三円を逋脱したものであると云うのである、従つて本件に於ては、海苔を積載した第六十三魚生号が出港したときに於て密輸入の実行の着手があつたものとみるべきであつて、その既遂時期は右海苔を陸揚げした時と解せなければならない、従つて本件海苔は、原審認定によれば、全部陸揚げを完了してはいるが、それは積載船坐礁のため、やむなく海難と称して所轄警察官に届出でその指示に従つて陸揚がなされたものであるから、海苔全部につき密輸入の目的は達成されず未遂に終つたものであり、その後原審挙示の証拠によつて認められるが如く、被告人等は警察官に対して梱包の個数のみ届出で、その内容の束数の届出をしていなかつたことを幸いとし、新たな犯意を以てその一部を他に売却したとしても、その点につき別罪を構成するのは格別、密輸入罪の既遂を以て論ずるのは失当といわなければならない、従つて被告人等の本件所為は海苔全部に対する密輸入の未遂罪と関税逋脱予備罪に該当するが、関税逋脱予備罪は密輸入罪とは保護法益を異にする関係上、たとえひとたび関税逋脱予備罪が成立したとしても、其の後更に進んで現実に関税逋脱の事実が生ずれば関税逋脱罪が成立し、その予備罪はこれに吸収されるものと解するのが相当である、そうだとすれば被告人の本件所為は海苔全部(三千二十四束)に対する密輸入未遂罪と、内千四十七束に対する関税逋脱予備罪、及び内千九百七十七束に対する関税逋脱罪が成立するに過ぎず、原審が被告人等がひそかに他に売却した海苔千九百七十七束に対し、密輸入罪の既遂を認定し、これに関税法第百十一条第一項を適用処断したことは結局法令の解釈を誤り判決に影響を与えたものと云うべきであつて本論旨は結局に於て理由がある。
両弁護人提出の量刑不当の控訴趣意について
本件記録に現われている諸般の情状を考慮するに原審が被告人に対して言渡した刑の量定は相当であつてこれを減軽する事由が認められないので、この点の論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条により、原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条但書に従い当裁判所は更に判決する。
(イ) 罪となる事実
被告人は大和興産株式会社の代表取締役であるが、同会社の業務に関し原審相被告人神谷喜之、同星野和男、同曺相祚と共謀し、
第一、昭和三十年三月二十一日、当時韓国から福岡県若松港に入港していた韓国貿易船第六十三魚生号に積載中の曺相祚所有の韓国産海苔二十一梱包(三千二十四束~一束百枚)を所定の許可を受けないで、福岡県京都郡苅田町苅田港に陸揚げして密輸入し、且その関税を逋脱せんことを企て、同日午後八時頃右海苔を積載せる同船を右若松港より苅田港に回航したところ、同船が誤つて苅田港貯炭場附近で坐礁したので止むなく海難と称して所轄警察官に届出でたためその指示に従つて右海苔を同所に陸揚げの上、小倉市富野五百五十四番地所在の大和興産株式会社保税上屋に入庫せねばならぬこととなり、翌二十二日貨物自動車で、同所々在同会社第二倉庫に運搬入庫したため密輸入の目的を遂ぐるに至らず且右海苔の中千四十七束(前掲三千二十四束より後記千九百七十七束を控除した数量)につき関税逋脱の予備に終り、
第二、更に右警察官には海苔二十一梱包とのみ届出でて束数の届出でまではしていなかつたことを奇貨とし、その一部を他に売却して関税を逋脱せんことを企て同日右海苔の中千九百七十七束を密かに広島市旭町千二百七十六番地三村義人方まで運搬の上、これを同人に売却し、その関税金七万七千百三円を逋脱したものである。
(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 青木亮忠 裁判官 尾崎力男)